それは私が保育園児かもしくは小学校低学年の頃。
「うぉーおじいちゃんカッコイイ!何それ斬鉄剣?」
私以下、弟2人も大興奮である。
「斬鉄剣じゃないけど。おじいちゃんが軍隊に行く時に、親戚の人から『無銘だけど、地元の有名な刀工さんの刀を買ってきた。軍刀にして、持っていきなさい』と貰った刀だよ」
と、目釘を抜いて、白い粉をポンポンしてお手入れをはじめた。
私は時代劇大好き子供だったので、うわぁーいいな〜かっこいいね〜などながめていたら。
「それで、戦争に負けて、GHQが刀を取り上げるって言い出して。絶対渡したくなかったから、家の縁の下に埋めて隠して。そのうち、刀を返すって、登録したら持ってて良くなったから、掘り返して、すごい錆びていたから研師に出そうとしたら、高い値段を言われたから、おじいちゃん自分で包丁を研ぐ砥石でといたら綺麗になったやろ?」
その時見た刀はピカピカになっていたので
「おじいちゃんすげーかっこいいね〜刀かっこいい〜」
という話しを、そういえば遠い昔していたなと。
さて、祖父は亡くなり、祖母も亡くなり、世間の平均寿命から見たら随分早く父も亡くなったある日。
「おじいちゃんの部屋を片付けていたら、新聞紙に包まれた刀が出てきた。どうしようか」
母から私達きょうだいに連絡が入った。
母、若干パニックである。
そりゃそうだ、銃刀法違反の可能性もあるわけだし。
その連絡で、幼い頃のあの会話を思い出した!
登録証あるはずだし、鞘もあるはず!だったのに、どこを探しても白鞘と登録証は無かった。
弟は、ほぼその話は覚えてなかったらしいが、警察に連絡して、登録した方が良いとなり。
「折角持って行って、登録証もらえたけど『こんだけ錆びてるし、ただの鈍器にしかならないし、無価値ですよ』って酷いよね!」
母は立腹しつつ、無事に登録証は発行されそのまま新聞紙に包み、その刀は押入れに仕舞われた。
その後、私は、世間で言うところの、刀剣女子になったのである。
(正直、刀剣女子という呼称はそろそろ刀剣に興味のある人なだけで特別女子にこだわらなくてもいいんじゃないかと思うけど、某ゲーム切っ掛けで博物館や美術館へ刀目的で行く事が増えたので)
で。
例の刀である。
無価値とは言え、おじいちゃんがわざわざ埋めてまで大切に守りたかった刀である。
親戚の人も、少尉(獣医として満州に従軍したらしい。当時にしたら、誉の出征だったんじゃないかと)として出征する人に渡した刀だと、それなりの品を餞別にしてくれたと思いたい。
(さらに余談であるが、祖父は高校生の時に両親を相次いで結核で亡くし、自分もうつってしまい、2年の頃ほとんど学校に行けず自宅静養で治って、高校3年生になり、進学したらしい。なので、親戚の人達が何かと世話をしてくれていたようだ。満州で従軍していた時に、上官と生立ちの話しになり、自分は天涯孤独で、もしもの時に遺骨を引き取る為に本家の親戚の娘と結婚して、すぐに出征して来ましたと話したら不憫に思って、金沢の部隊に転属してくれたと聞いた。金沢で終戦を迎えられたから、無事に家へ帰れたんだろうなと、推測)
幼い頃に聞いてた話しを、思い出して書いているが、祖父が嘘をつく必要も無いだろうし、それを手掛かりに、無価値と言われた刀の来歴を考えてみる。
軍刀には茎に桜の刻印が打ってあるらしいが、桜の刻印は無かった。
そもそも、獣医少尉が軍刀持ってなくても良かったんじゃないかとも思う。ので、せっかく貰ったけど、身に付けなくて良かったから、正式な軍刀にはしてなかったのだろうか。
軍刀だと、拵えも軍刀仕様になってたと思うけどけど、幼い時に見たのは既に白鞘だけだったので、拵はあったかどうか分からない。
次に。
地元の刀工さんというと、宇多がある。
同じ県内で言えば、江(ごうとおばけはホンモノを見た事が無い、の江も強引に)も地元である。
で。
地面に埋めて錆びてる。
その時点でもうアウトだろうと思うけど、自分の家の、包丁を研ぐ砥石で研ぐはもうアウトオブアウトだよおじいちゃん……今の私ならプロに頼もうと言うけど。
という状態ではあるが、現在こんな感じで、実家にある。
ボロボロで気の毒(இдஇ; )
地は黒っぽいし(写真だと真っ黒にしか見えないけど)茎もぼったりしてる。